甲府簡易裁判所 昭和32年(ハ)457号 判決 1960年2月13日
原告 浅尾英世
被告 大木日出雄 外一名
主文
被告両名は、原告浅尾英世に対し、連帯して金六六、六六六円とこれに対する昭和三二年一一月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
被告両名は、原告山田重次に対し、連帯して金一三、三三三円とこれに対する昭和三二年一一月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告両名の連帯負担とする。
事実
原告等は、主文同旨の判決と担保を条件とする仮執行の宣言を求め、この請求原因として、
一、訴外亡浅尾長次は、昭和二二年一月その所有の別紙目録記載の(イ)の土地を建物所有の目的で被告大木日出雄に賃貸し、同被告は、この土地の上に別紙目録記載の(ハ)・(ニ)の建物を建築所有していた(右(ニ)の建物は(イ)の土地の内別紙目録記載の(ロ)の部分の土地上に建てられていた。)。
二、ところが、被告大木は、賃貸人である訴外長次に無断で昭和二六年始頃(ニ)の建物の所有権と共にその敷地である(ロ)の土地の賃借権を被告筒井登に譲渡してしまい、(ニ)の建物につき家屋台帳上被告筒井の所有名義に登録した。
三、そこで、訴外長次は、被告大木の右(ロ)の土地の無断譲渡を理由として、昭和二七年六月一六日(イ)の土地全部の賃貸借契約を解除し、この賃貸借の終了を理由として甲府地方裁判所に対し被告両名を相手方として(ハ)・(ニ)の建物収去と(イ)・(ロ)の土地明渡の訴を提起した(同庁昭和二七年(ワ)第一二四号建物収去土地明渡請求事件。-以下単に「前訴」という。)。
四、右の訴訟において、被告等は、「無断譲渡の事実を否認し、被告筒井は、前記土地上に被告大木が建築した(ニ)の建物を同被告より賃借しているに過ぎず、(ハ)の建物が家屋台帳上被告筒井の所有名義に登録されているのは、さきに、被告筒井が、被告大木に弁済期を昭和二八年一二月三一日として貸し付けた金一六万円の返済を確保する必要上、期日までに右貸付金の弁済ができないときは、この建物の所有権を被告大木から被告筒井に譲渡することを内容とする代物弁済の予約をなし、その予約に基くこの建物の所有権移転請求権を保全すべく、その頃未登録であつた(ハ)の建物を、被告両名相談の上、便宜被告筒井の所有名義で家屋台帳に登録したものであつて、これは真実の建物所有関係を表すものではない。」と、故意に、真実に反した主張をなし、のみならず、前記のような土地賃借権の一部譲渡を隠蔽するために、右被告等の主張に副うような内容虚偽な仮装の金銭消費貸借公正証書を予め作成して置き、これを前訴において書証として提出し、且つ、証人大木光や証人斉藤清作等に、右の主張に副う如き虚偽の証言をさせ、また、被告両名も同様な虚偽の陳述をして、不当に抗争するに及んだ。
五、この為、訴外長次は、第一審において容易に勝ち得べき訴訟を、昭和二九年四月三〇日遂に敗訴の判決の言渡を受けた。
六、訴外長次は、直ちに東京高等裁判所に控訴し(同庁昭和二九年(ネ)第一、二〇三号控訴事件)、と同時に、被告等の不当な主張並びに証拠の提出により、この事件の勝敗の帰趨の容易ならざることを知り、これを勝訴に導くには東京高等裁判所の所在地である東京に在住する数人の優秀な弁護士に依頼する必要があると考え、第一東京弁護士会所属の弁護士である訴外岡田実、持田五郎、小林哲郎の三名を訴訟代理人に委任し、控訴審における訴訟の担当を依頼した。
七、控訴審においても、被告等は第一審と同様の主張をなし、第一審に提出した証拠を援用して不当な抗争を続けたけれども、右三弁護士の努力によつて真実が認められ、東京高等裁判所は、被告等の前記主張は土地賃借権の一部譲渡を仮装したものに過ぎないとして、訴外長次の主張を容れ、昭和三〇年二月九日第一審判決を取消して訴外長次の請求を全部認容する旨の判決をするに至つた。
八、右控訴審の判決に対して被告等から上告したが、昭和三二年五月二八日上告棄却となり、ここに右控訴審の判決は確定し、訴外長次の勝訴となつて右前訴は終了した。
九、よつて、訴外長次は、昭和三〇年二月一五日弁護士報酬の一部として訴外岡田に対して金三万円を、訴外小林に対して金二万円を支払つたが、昭和三一年二月二六日死亡して、その相続人において残余の弁護士報酬の支払義務を承継するに至つたので、その相続人の一人である原告重次が他の相続人の分も立て替えて、昭和三二年六月五日訴外岡田に対して金二万円を、同月六日訴外小林に対して金一万円を、いずれも弁護士報酬の残額として、昭和三二年七月八日訴外持田に対して弁護士報酬として金三万円を支払つた。しかして、訴外岡田等に支払つた弁護士報酬計金一一万円は、前訴の訴訟物であつた(イ)の土地の訴訟委任当時の時価金一〇五万円余(当時の時価は坪当り金四、〇〇〇円で二六三坪分)の約一割に当り、且つ、この金額は、右三弁護士所属の第一東京弁護士会の報酬規程の範囲内の額で、前訴の控訴審における弁護士報酬としては相当の額である。
一〇、しかして、被告等が前訴においてなした前述のような不当抗争は、信義に従つて正当になすべき攻撃防禦方法の行使を、著しく不法に逸脱するものであつて、これは民法第七〇九条にいわゆる故意によるか或いは少くとも重大な過失による不法行為を構成するものであるところ、前訴の控訴審における訴訟代理人である訴外岡田等三名に支払つた前記金一一万円の内少くとも金一〇万円は、被告等の不当な抗争によつて支出を余儀なくされた出費であつて、この金一〇万円の出費は、被告等の共同不法行為に基く損害に外ならないから、被告等は、その賠償をすべき義務がある。
一一、しかして、訴外長次の相続人は、その妻である原告英世・その弟である原告重次・その兄である亡近藤徳太郎の直系卑属である訴外近藤直七外二名(徳太郎は、訴外長次の死亡前に死亡して、訴外直七外二名がその代襲相続人となつた。)・その弟である訴外浅尾正三の六名であり、その相続人等は、その相続によつて取得した損害賠償請求債権金五万円と、承継した訴外岡田等に対する報酬支払債務の内金五万円の合計金一〇万円につき、被告等に対してその相続分の割合に応じた損害賠償請求権を有するものであるところ、その内原告英世の相続分は三分の二・原告重次の相続分は一五分の二であるから、原告英世は金六六、六六六円(円未満切捨)の、原告重次は金一三、三三三円の損害賠償請求権を有している筋合となる。
よつて、原告両名は、被告両名に対し、右各損害賠償請求債権とこれに対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
と述べ、被告主張の仮定抗弁中、訴外長次が訴外岡田等三弁護士に訴訟委任した日時の点のみを認め、その余の事実を全部否認し、立証として、甲第一ないし五号証、第六・九・一三・一八・二〇・二一号証の各一・二、第七・八・一〇・一一号証、第一二号証の一ないし四、第一四号証、第一五号証の一ないし五、第一六・一七・一九号証の一・二・三、第一二ないし二六号証を提出し、証人岡田実、小林哲郎、持田五郎の各証言、原告山田重次本人尋問の結果、鑑定人寺田貞雄・秋吉一男の各鑑定の結果を援用し、乙第一〇・一一号証の各成立は知らないが、その余の乙各号証の成立はいずれも認める、と述べた。
被告等は、いずれも、請求棄却の判決を求め、答弁として、
一、原告主張の請求原因第一項の事実は認める。
二、同第二項中(ニ)の建物につき家屋台帳上被告筒井の所有名義に登録したことは認めるが、その余の事実は否認する。
三、同第三項の事実は認める。
四、同第四項中、前訴における被告等の主張したところ、及び証拠としてその主張に副う公正証書を提出し、その申請の証人並びに本人がその主張に副うような供述をしたことは、原告の主張するとおりであるが、その余の事実は否認する。被告等のその主張は、真実を有りのままに陳述し、公正証書も真実に従つて作成され、証人や本人も真実を述べたものであつて、何等不当に抗争したことにはならない。のみならず、右の公正証書には、(ロ)の土地の転貸の事実が明記されているのであるから、右の公正証書を書証として提出することは、何等不当な抗争とはならないものである。
五、同第五項中、原告等主張の日時に訴外長次が第一審で敗訴の判決を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。
六、同第六項中、訴外長次が東京高等裁判所に控訴を提起し、第一東京弁護士会所属の弁護士である訴外岡田実・持田五郎・小林哲郎の三名を訴訟代理人に委任し、控訴審における訴訟を担当させたことは認めるが、その余の事実は争う。
七、同第七項中、原告等主張の日時に控訴審においては、第一審の判決を取り消して訴外長次の請求を全部認容する旨の判決をなしたことは、認めるが、その余の事実は否認する。却つて、訴外長次は、控訴審において種々訴訟工作をなし、原告重次を証人に申請して虚偽の証言をなさせたため、東京高等裁判所は、事実を誤認し、原告重次の証言を採用して被告等を敗訴せしめたものであつて、訴外長次にこそ不当訴訟の責任がある。
八、同第八項の事実は認める。
九、同第九項中、訴外長次が死亡したこと、は認めるが、その余の事実は知らない。
一〇、同第一〇項の事実は否認する。被告等は、訴外長次が不当な前訴を提起したので、自己の正当な権利を守るために止むを得ず応訴したものであり、その提出した攻撃防禦方法は、もとより民事訴訟法に認められた正当な範囲内の権利の行使であつて、何等不法行為を構成するものではない。
一一、同第一一項の事実は争う。
と述べ、仮定抗弁として、
一、仮りに、被告等の前訴における応訴行為が不法行為を構成するとしても、訴外長次が弁護士岡田等三名に支払つた報酬と右不法行為とは相当因果関係がない。
二、仮りに、相当因果関係があるとしても、通常生ずべき損害でなく、特別の事情に因つて生じた損害であるところ、前訴における第一審の訴訟代理人は、訴外長次の実弟で、学識経験の豊かな弁護士である原告重次で、且つ、同原告が控訴を提起した訴訟代理人でもあるから、同原告一人に控訴審における訴訟を担当させれば充分で、更に他の三名の弁護士に訴訟を委任する必要は全然なかつたものであり、被告等としても、原告重次一人で控訴審における訴訟を担当するものと信じていて、訴外長次が更に三名の弁護士に訴訟委任をしてこれに報酬を支払うことは、全然予見しておらず、また予見し得べき事情も存しなかつたのである。
三、若し、右三名の弁護士に支払つた報酬が、相当因果関係の範囲内にある通常生ずべき損害であるとしても、三名もの弁護士に訴訟の代理を委任して、これに支払つた報酬全額を損害賠償として請求することは、権利の濫用として許されないものといわなければならない。
四、また、仮りに、被告等にいくばくかの損害賠償義務があるとしても、その範囲は、諸般の事情を総合して決定すべきものであるところ、前訴の控訴審において実際に訴訟を担当したのは、訴外小林哲郎一人だけであり、その他の訴外岡田実・同持田五郎の両弁護士は、単に名目上訴訟代理人となつたに過ぎないから、後者二名の者に対する報酬の支払は、相当因果関係の範囲内にないものである。
五、仮りに、被告等に不当抗争による損害賠償義務があるとしても、前訴における不当抗争の終期は遅くとも第一審判決の言渡の日である昭和二九年四月三〇日であり、当時既に損害賠償請求権は発生していたものと見るべきであるところ、右期日から三年を経過した昭和三二年四月三〇日限り右損害賠償請求権は時効によつて消滅しているから、被告等は、本訴において、右時効の利益を援用する。
六、また、仮りに、右時効の主張も理由がないとしても、訴外長次が、控訴審において訴外岡田等三名を訴訟代理人に選任したのは、昭和二九年九月三〇日以前であり、当時報酬の支払を約していたものであるから、既に同日頃損害賠償請求権は発生していたものであるところ、それより三年を経過した昭和三二年九月三〇日限り右請求権は時効によつて消滅していたものであるから、被告等は、本訴において、この時効の利益を援用する。
と述べ、立証として、乙第一・二号証の各一・二(乙第一号証の一は甲第二〇号証の一と、乙第一号証の二は甲第二〇号証の二と同じ。)、第三ないし一一号証を提出し、被告筒井登及び同大木日出雄各本人尋問の結果を援用し、甲第二一号証の一・二及び第二二号証の成立は知らないが、その余の甲各号証の成立はいずれも認める、と述べた。
理由
成立に争のない甲第一・二・三号証、第六号証の一、第七号証、第一五号証の二及び五、第一七号証の三、第一九号証の二・三、第二〇号証の二、原告山田重次本人尋問の結果に、成立に争のない甲第一五号証の三及び四・第一六号証の二及び三・第一七号証の二、第一八号証の二、第二三号証、被告筒井登本人尋問の結果の各一部(後記信用できない部分を除く。)、並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。即ち。
被告大木は、昭和二〇年頃戦争の関係で東京より甲府に疎開して来て、妻の叔母にあたる原告浅尾英世の夫である訴外浅尾長次から、別紙目録記載の(イ)の土地を、建物所有の目的で賃借りすると共に、他に約二、〇〇〇坪の農地についても同訴外人から耕作することを委されたので、(イ)の土地上に別紙目録記載(ハ)の建物を建築してこれに居住し、右農地の耕作をするようになつた(被告大木が、(イ)の土地を建物所有の目的で訴外長次から賃借りし、この土地上に(ハ)の建物を建築所有していたことは、当事者間に争がない。)が、戦後の農地改革等のことで、早や昭和二一年頃には訴外長次との間に右土地のことで紛争が起こり、裁判所で調停が成立したりしたことがあつたが、土地の賃料の問題は、未解決のまま年月が過ぎて行つた。
(イ)の土地は、甲府市立南中学校の近くにあるので、昭和二四年の春頃、被告大木は、その内別紙目録記載の(ロ)の土地六〇坪の部分に、別紙目録記載の(ニ)の建物を建築して文房具店を開店するようになつた(被告大木が(ロ)の土地六〇坪の部分に(ニ)の建物を建築してこれを使用していたことは、当事者間に争がない。)が、昭和二五年の初め頃から昭和二六年の初め頃までは大阪に出て働いていた関係上、その間の営業は、同人の妻である訴外大木光が続けていた。
ところが、昭和二六年の二月頃、被告大木は、東京に職を得て、その方に移住すること等で金の必要にせまられていたのみならず、他方、前記の文房具店は、万引や何かで予想した程の利益もなかつたところ、偶々土地建物取引等のブローカーである訴外斉藤清作の仲介で、(ニ)の建物を被告筒井に売却する話合が進み、同年三月初め頃被告大木から被告筒井に対して(ニ)の建物を代金一二万円・商品である文房具その他を一万円で売却すると共に、(イ)の土地の内(ロ)の六〇坪の部分の賃借権を坪金七五〇円の割合で譲渡する旨の契約が成立し(被告筒井は、前訴の確定判決に対して原告等を相手に異議の訴を提起したが、その訴状には右賃借権譲渡の事実があることを自ら主張さえしている。)、被告筒井は、その頃から(ニ)の建物に入つて文房具店を始める(昭和二七年六月一五日被告筒井が、原告山田に「自己が被告大木から(ニ)の建物を代金一二万円・商品その他を代金一万円で買い受け、(ロ)の土地の賃借権の権利を坪金七五〇円の権利金で得た。」と回答したことについては、前訴において、被告筒井の自認しているところであり-甲第一六号証の三参照-、本件における被告筒井本人尋問の際にも、「(ニ)の建物は被告大木から借り受けたものでなく、買い受けたものである。」と、自陳するところである。)と共に、昭和二六年五・六月頃、(ニ)の建物につき甲府地方法務局に被告筒井名義に家屋台帳の登録を了した((ニ)の建物につき、被告筒井名義に家屋台帳の登録をしたことについては、当事者間に争がない。)。
しかし乍ら、右(ロ)の土地六〇坪の賃借権の譲渡は、賃貸人たる訴外長次の承諾を受けずに、無断でなされたものであるのみならず、当時訴外長次は、被告大木に対し、同被告に耕作させていた農地の返還を要求し、被告大木はこの要求を拒否していて両者の話合は仲々つきそうもない折でもあつたので、その賃借権の譲渡等の仲介をした訴外斉藤清作のすすめで、昭和二六年三月五日「被告筒井から被告大木に金一六万円を弁済期昭和二八年一二月三一日の約で貸し付け、被告大木は、右債務の支払を担保するため、弁済期に元金の支払をしないときは、その弁済に代えて(ニ)の建物の所有権を被告大木から被告筒井に移転するという代物弁済の予約をすると共に、(ニ)の建物を被告筒井に賃貸する。」旨の金銭消費貸借公正証書を公証人松川正光に作成して貰つた(甲第六号証の一がその公正証書である。右のような内容の公正証書ができたことについては、当事者間に争がない。なお、この公正証書には、第四条に(ニ)の建物を被告大木から被告筒井に賃貸することにし、その条件として、「一、賃料ハ一ケ月金千二百円ト定メ毎月末日限リ賃貸人方へ持参シテ支払ウモノトス」と定められているにも限らず、更にその次に、右(ニ)の建物賃貸の条件の一つとして、「一、但地代ハ年二回ニ分割シテ公定料ヲ以テ支払ウモノトス」と、正に(ロ)の土地の賃借関係を考慮しない限り意味不明の条項さえ規定されているのである。)。
けれども、間もなくして、訴外長次にも右賃借権譲渡の事実が判り、同訴外人は、昭和二七年六月一六日、「被告大木に対し、「同被告が賃貸人に無断で右(ロ)の土地の賃借権を被告筒井に譲渡したからという理由で(イ)の土地全部の賃貸借契約を解除する。」旨の意思表示をなし、更に、右契約解除によるこの賃貸借契約の終了を原因として、甲府地方裁判所に対し、被告両名を相手に、(ハ)(ニ)の建物収去と(イ)・(ロ)の土地明渡の訴を提起し、同庁昭和二七年(ワ)第一二四号事件(前訴)として係属するに至つたので、被告両名は、「訴外長次主張の賃借権の無断譲渡の事実を否認し、被告筒井は、(ロ)の土地上に被告大木が建築所有している(ハ)の建物を同被告より賃借りしているに過ぎず、(ハ)の建物が被告筒井の所有名義に家屋台帳の登録がなされているのは、さきに、同被告が被告大木に弁済期を昭和二八年一二月三一日として貸し付けた金一六万円の返済を確保する必要上、若し、期日までに右貸付金の支払がないときは、この(ハ)の建物の所有権を弁済に代えて被告大木から被告筒井に移転することを内容とする代物弁済の予約をなし、その予約に基く(ハ)の建物の所有権移転請求権を保全するため、被告両名相談の結果、当時未登録であつた(ハ)の建物につき、便宜被告筒井の所有名義に家屋台帳の登録をしたものであつて、これは真実の建物所有の関係を表すものではない。」旨を主張して、応訴して行つた(間もなくして、訴外長次が、賃借権の無断譲渡の事実を知つたという点を除き、当事者間に争がない。)(なお、被告等は、前訴では、権利濫用の抗弁等を主張していたが、最大の争点は(ロ)の土地賃借権の無断譲渡の有無に存した。)。
そうして、第一審においては、被告等は前記甲第六号証の一の公正証書その他を書証として提出し、証人として訴外大木光を二回・前記斉藤清作を一回、訴外志村洋介を一回、本人として被告大木を一回・被告筒井を二回と、各その取調を申請したところ、証人及び本人等は、いずれも被告等の右の主張と一致する供述をなし、甲府地方裁判所も、(ロ)の土地につき賃借権の譲渡がないという被告等の主張事実を認定して、昭和二九年四月三〇日訴外長次の請求を全部排斥するに至つた(被告等が右公正証書を書証として提出し、その申請した証人大木光や斉藤清作並び被告両名が被告等の主張と一致する陳述をし、甲府地方裁判所が、被告等の主張を容れて、訴外長次の請求を棄却したことは、当事者間に争がない。)。
第一審で敗訴した訴外長次は、直ちに東京高等裁判所に控訴を申立てると共に、該訴訟の勝敗の帰趨が容易でないのを知り、弟の原告重次を通じて、先ず、第一東京弁護士会所属の弁護士で原告重次の友人である訴外岡田実に控訴審における訴訟の担当方を委任したが、同人が、一人で担当することにつき不安のあることをもらしたので、同じく原告重次の友人である訴外小林一郎に相談したところ、同訴外人がその息子で前同弁護士会所属の弁護士である訴外小林哲郎をすすめたので、同訴外人をも訴訟代理人に委任し、更に原告重次が前に使つていたことのある同弁護士会所属の弁護士訴外持田五郎をも訴訟代理人に加えて、控訴審の訴訟を進めた(訴外長次が、東京高等裁判所に控訴し、第一東京弁護士会所属の弁護士である訴外岡田実・小林哲郎・持田五郎の三名を訴訟代理人に委任したことは当事者間に争がない。)ので、右三名の訴訟代理人は、(ロ)の土地六〇坪の賃借権が被告大木から被告筒井に譲渡されたことは間違いなく、前記の金銭消費貸借公正証書なるものは、右譲渡の事実を隠蔽するためになされた仮装の内容虚偽な文書で真実の権利関係について作成されたものでないことを極力主張して、この点の立証に努め、一方、被告等は、「被告大木が被告筒井に(ロ)の土地の賃借権を譲渡したことはなく、(ニ)の建物の家屋台帳の記載は真実の権利関係を表すものではなく、公正証書に記載されたところが真実の権利関係と合致するものである。」と一審同様の主張を続け、第一審提出・援用の証拠を援用して抗争した。
東京高等裁判所は、審理の結果、被告大木は、被告筒井に対して(ニ)の建物を売却すると共に、その敷地である(ロ)の土地六〇坪の賃借権を譲渡したものであり、公正証書に記載されてある契約条項は、右譲渡の事実を隠蔽するためになされた仮装のものであると認定し、証人大木光・斉藤清作の各証言や被告両名の本人尋問の結果は信用できないものであるとして、訴外長次の主張を容れ、昭和三〇年二月七日一審判決を取り消して同訴外人の請求を全部認容するに至つた(東京高等裁判所が、公正証書に記載してある契約条項は、(ロ)の土地の賃借権の譲渡を隠蔽するための仮装のものであるとして訴外長次の主張を容れ、第一審判決を取り消して同訴外人の請求を全部認容したことは、当事者間に争がない。
更に、被告等から右の控訴審の判決に対して最高裁判所に上告したが、昭和三二年五月二八日上告棄却となり、ここに控訴審の判決が確定し、訴外長次の勝訴となつて、その訴訟が終了した(この点については、当事者間に争がない。)。
右認定に反する甲第一五号証の三・四、第一六号証の二・三、第一七号証の二、第一八号証の二、第二三・二四号証、乙第八・九号証の各記載、並びに被告筒井登本人尋問の結果、は信用できず、他に右認定に反する証拠はない。
そこで被告等の前判示の応訴行為が、不当抗争として民法上の不法行為を構成するかどうかについて判断する。
元来、我が国法上は、何人といえども裁判所において裁判を受ける権利を有することは憲法第三二条に明定するところであつて、他からの訴に対して自由に応訴して自己の権利を防禦することは一つの権利でもあると解すべきであるから、被告が応訴して主張したところが理由がないとして敗訴したとしても、単にそれだけでは不法行為に該当するということはできないけれども、被告が自己の主張に副うような内容虚偽の公正証書等を作成してこれを訴訟に提出したり、証人に自己の有利なように偽証をさせたり、または、自らその経験した記憶と反する虚偽の供述をしたりして、刑法上または民事訴訟法上制裁を受けるような公序良俗に反する違法な方法で争つたり、或いは、原告の主張が正しくて、自分の方にこれを争うべき何等の理由がないことを充分知つておりながら、無暗に原告の主張事実を否認したり、敢えて、虚構の抗弁等を提出して争を続けるというように、訴訟法上許容された範囲を越え、信義則に反する不当な方法で抗争したりして、防禦の権利を濫用したというような場合には、たとえ被告の方で勝訴の判決が確定した場合であつたとしてもその応訴行為は違法性を帯び、不当抗争として不法行為を構成するものと解すべきである。
本件についてこれを見るに、前記認定の事実に徴すれば、「被告筒井が(ロ)の土地六〇坪の賃借権の譲渡を受けた昭和二六年頃は、訴外長次と被告大木間に本件(イ)の土地の賃料の点が解決せず、また、訴外長次から被告大木に対して他の農地の返還要求があつても同被告がこれを拒絶して両者の話合は仲々つきそうにない折であつたので、訴外長次が、右賃借権の譲渡について承諾を与えるような情勢ではなく、被告等関係者は充分その間の事情を知つていた上に、右賃借権譲渡等の仲介をした訴外斉藤清作が、土地建物取引のブローカーで賃借権の無断譲渡があるとその賃貸借契約が解除される場合がある等土地建物取引における法律関係にも精通していたので、同人のすすめにより、実際上は、(ニ)の建物の売買とこれに伴う(ロ)の土地の賃借権の無断譲渡であるのに、表面上は、賃借権の譲渡を伴わないところの単なる代物弁済予約付の金一六万円の金銭消費貸借と(ニ)の建物に関する被告相互間の賃貸借契約であるかのように仮装し、昭和二六年三月五日この虚偽の事実を公正証書の原本に記載して後日の為に備えたものであつたが、当初の契約によるものか、または、この公正証書の存在に安心してか(対訴外長次関係)、或いは公正証書の存在に不安を感じてか(対被告大木関係)、被告筒井は、真実の権利関係どおり(ニ)の建物につき家屋台帳に自己所有名義に登録をするに至つたものである(国家の公簿であり、且つ、建物所有権の保存登記をするに必須の前提要件である家屋台帳-不動産登記法第一〇六条-に、虚偽の権利関係を登録することは稀有のことに属する。まして、(ニ)の建物の代物弁済予約付の金一六万円の消費貸借契約に関する公正証書の存在と、家屋台帳上の登録とを比較して、当事者が後者を重視するであろうことは火を見るより明らかである。)。ところが、訴外長次は、正に(ロ)の土地賃借権の無断譲渡による(イ)の土地の賃貸借契約の解除を原因として、前訴を提起したので、被告両名は、無断譲渡の当事者として、訴外長次主張の(ロ)の土地賃借権の無断譲渡の事実が正しくて、被告等の方でこの事実を否認して争うべき何等の理由がないことを了知しており乍ら、「被告筒井は被告大木所有の(ニ)の建物を賃借りしているに過ぎず、(ロ)の土地の賃借権譲渡の事実はない。(ニ)の建物につき被告筒井所有名義に家屋台帳の登録をしたのは、被告筒井が被告大木に貸した金の返済を担保するためになされた(ニ)の建物に関する代物弁済の予約に基く所有権移転請求権を保全するために便宜上なしたものである。」と敢えて抗争し、予め後日のために用意されていた前記仮装の事実が記載されている(不実記載)公正証書を書証として提出し、且つ、自らも本人尋問を求め、宣誓をした上、その間の事情を充分知つておりながら、事実に反してその主張に副うような虚偽の陳述をしたものである(証人大木光及び斉藤清作が、前訴において事実に反する証言をなしていることは前判示のとおりであるが、果して、被告等が同証人等に偽証をさせたものであるかどうかは判然しない。)。」と推認することができるところである。
とすると、前訴において、被告等は、訴訟法上許された範囲を著しく逸脱した信義則に反する不当な方法で抗争したもので、その防禦行為は公序良俗に反する違法なものであるから、防禦権の濫用として不法行為を構成するものと解するのが相当である。
そこで、進んで、被告等の不法行為による損害の点について判断すべきこととなる。
成立に争のない甲第四号証、証人小林哲郎の証言、同証言によつて真正に成立したものと認める甲第二一号証の一・二、証人持田五郎の証言、同証言によつて真成に成立したものと認める甲第二二号証、証人岡田実の証言、原告山田重次本人尋問の結果によれば、訴外長次は、原告重次を通じて、前訴の控訴審における弁護士報酬として、その訴訟代理人であつた訴外岡田に対し、昭和三〇年二月一五日金三万円を、訴外小林に対して同日金二万円を支払つたが、訴外長次は昭和三一年二月二六日死亡したので、その相続人の一人である原告重次が、更に、昭和三二年六月五日訴外岡田に対し金二万円、同月六日訴外小林に対して金一万円を、同年七月八日訴外持田に対して金三万円を、いずれも弁護士報酬として支払つたもので、その報酬額は総計金一一万円を数えること、が認められ、右認定に反する証拠はない。
しかして、成立に争のない甲第一号証、鑑定人寺田貞雄・秋吉一男の各鑑定の結果によれば、民事訴訟事件における弁護士報酬の額は、訴訟の目的物の価額の算定できるものについては、その算定価額を基準としてこれを定めるのが通例であり、前訴において、訴外長次は、所有権に基いて、被告両名を相手方として(ハ)・(ニ)の建物の収去と(イ)・(ロ)の土地の明渡を求めるものであり、(ロ)の土地は(イ)の土地の一部分であるので、その訴訟の目的物は正に(イ)の土地の所有権に外ならないから、この(イ)の土地の価額を基準として弁護士の報酬額を算定すべきものであるところ、訴外長次が、前訴で東京高等裁判所に控訴を提起した昭和二九年五月当時における(イ)の土地の価額は坪金四、二〇〇円で実測二六三坪では計金一、一〇四、六〇〇円となり、この価額は控訴審の判決言渡の日である昭和三〇年二月九日までに著しい変動はないと考えられる(若干値上りしたことは窺えるが値下りしたとの証拠は何もない。)が、前訴は、三名の弁護士に別々に訴訟の委任がなされ、且つ、控訴審における三名の訴訟代理人の努力の結果、控訴審八ケ月の審理の末、第一審の全部敗訴の判決が取り消されて訴外長次の全部勝訴の判決を得たものであり、上告審もこの判決を支持しているのであつて、日本弁護士連合会報酬等基準規程、第一東京弁護士会の弁護士報酬規則、その他訴訟の内容等に徴すればその報酬額は最低一人あたり金一四万円を支払うのも過大ではない。と認められ、右認定に反する証拠はない。
とすると、前認定の訴外岡田等に支払われた計金一一万円の報酬金は、右弁護士の報酬としては相当の金額であると言わなければならない。
ところで、我が国の民事訴訟法では、本人訴訟を許容し、訴訟上必ずしも弁護士に代理を委任することを強制している訳ではないが、一面地方裁判所以上の訴訟代理人は必ず弁護士であることをも要求しているのみならず、実際上においても、法律的な素養の少ない当事者本人だけで完全な攻撃防禦の方法を尽して自分の権利を充分に擁護し得るということは極めて稀であり、多くは法律的素養を身につけて経験に富んだ弁護士を訴訟代理人に委任して、訴訟を遂行するのが普通であり、弁護士に訴訟代理人を委任した場合には、殆んど当該弁護士の所属する弁護士会で定められた報酬に関する規則に従つて、報酬を支払うのが実情であるから、前判示のように、前訴において、被告等の不法行為を構成する不当な抗争によつて第一審で敗訴の判決を受けた訴外長次が、自己の権利を防禦するために控訴を提起し、訴外岡田等三名の弁護士に控訴審の訴訟代理を委任して、これに報酬金を支払つた場合、この支出は、被告等の不法行為によつて生じた通常の、直接、且つ、積極的損害であると解するのが相当である。従つて、この点に関する被告の第一(相当因果関係がないとの。)第二(特別事情による損害だとの。)の仮定抗弁はいずれも採用の限りでない。
そこで、被告の第三(権利濫用)の抗弁について判断するに、なる程、例えば、訴訟の目的物の価額金一〇〇万円の事件につき一〇人の弁護士を訴訟代理人に委任し、一人あたり金一〇万円あての合計金一〇〇万円を報酬として支払い、その全額を不法行為による損害であるとして賠償を求めることは、或いは権利の濫用に該当する場合がないとは言えないが、実際には、数名の弁護士に訴訟代理を委任することは稀ではないのみならず、前認定のとおり、前訴における弁護士報酬としては、一人あたり金一四万円の合計金四二万円でも過大なものであるということができないものであるところ、実際に支払われた報酬額は、その一人分にも充たない金一一万円であり、本訴では、その内一〇万円が損害であるとして請求をしていることは原告等の主張自体から明らかであり、他に、原告等が、自己の利益を度外視し、単に、被告等を困らせ、又、損害を加える目的だけで、本件訴を提起したとか、或いは、社会生活上一般に到底認容できないような不当な結果の生ずるとかの点につき、何等の主張立証のない本件においては、被告等主張の権利濫用の抗弁は採用することができない。
次に、被告の第四の抗弁について判断するに、成る程、成立に争のない甲第七号証によれば、前訴の控訴審において、小林哲郎代理人が昭和二九年一〇月一一日附の準備書面を提出したものであり、同人は、本訴において証人として、「前訴は私が主として弁論にあたり、他の二人は席を列べただけでした。」旨を証言しており、同人が他の二人に比較して相当多くの努力をつくしたであろうことは窺えないでもないが、単に、それだけでは、訴外岡田及び訴外持田の報酬請求権の発生を否定することはできず、他にその発生を否定するに足る証拠はないから、この点に関する被告等の主張も採用することはできない。
そこで、更に被告の第五・六の時効の抗弁について判断するに、成る程、被告等が、前記不実記載の公正証書を書証として提出し、自ら虚偽の陳述をしたのは、前認定のように前訴の第一審においてであつたが、被告等は、控訴審においても、「被告大木が被告筒井に(ロ)の土地の賃借権を譲渡したことはなく、(ニ)の建物の家屋台帳の記載は真実の権利関係を表すものではなく、公正証書に記載するところが真実の権利関係と合致するものである。」と一審同様の主張を続け、第一審においての証拠即ち不実記載の公正証書や虚偽の内容の本人尋問の結果を提出援用して抗争したことは、前認定のとおりであり、弁論の全趣旨によれば控訴審の弁論終結の日は昭和三〇年一月下旬頃であることが認められる(この認定に反する甲第一号証の記載は信用できない。)から、被告等の不法行為(不当抗争)は、すくなくとも、右昭和三〇年一月下旬頃まで継続していたものと解すべきである(上告審においては、被告等は(ロ)の土地の賃借権の譲渡の事実がないとの主張は、していない。)のみならず、前認定のように、訴外岡田等に弁護士報酬の支払われた最初の日も昭和三〇年二月一五日頃であるから、被告等の不当抗争による本件損害賠償請求権は、昭和三〇年一月以前に発生したものと解することはできず、昭和二九年四月三〇日または同年九月三〇日には、その損害賠償請求債権が発生したとの被告等の主張は、これまた当裁判所の採用しないところである。
とすると、前認定のように、訴外長次は、その生前である昭和三〇年二月一五日訴外岡田及び訴外小林に対して、前訴の弁護士報酬の一部として計金五万円を支払つていたものであるから、既にその支払当時において被告等に対して少くとも金五万円の損害賠償債権を有していたものであるが、残余の弁護士報酬を支払うことなく死亡するに至つたので、相続により、その相続人等においては右金五万円の損害賠償請求権を取得すると共に残余の弁護士報酬支払義務をも承継したものであると解すべきところ、その相続人の一人である原告重次が他の相続人の分も併せて残余の弁護士報酬として訴外岡田等に合計金六万円の支払を了したものである(この点も前認定のとおりである。から、一応右合計金一一万円につき、被告両名は共同不法行為者として訴外長次の相続人に対して、その相続分に応じた損害の賠償をなすべき義務を負担しているものといわなければならない。
しかして、成立に争のない甲第四・五号証及び第二六号証に弁論の全趣旨を総合すれば、昭和三一年二月二六日訴外長次が死亡して相続が開始し(この点については前判示のとおりである。)、その相続人は、その妻である原告英世・その弟である原告重次・その兄である亡近藤徳太郎の直系卑属である訴外近藤直七外二名(徳太郎は、訴外長次の死亡前に死亡して、訴外直七等がその代襲相続人となつた。)・その弟である訴外浅尾正三の六名であり、原告英世の相続分は三分の二、原告重次の相続分は一五分の二であると認められる(右認定に反する証拠はない。)ところ、原告等は、右金一一万円のうち少くとも金一〇万円が被告等の不法行為によつて生じた損害であると主張しておるから、原告英世の相続した分は金一〇万円の三分の二である金六六、六六六円(円未満切捨)で、原告重次の相続した分はその一五分の二である金一三、三三三円(円未満切捨)であること計数上明らかであり、被告等両名は、原告等に対して連帯して右金員とこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和三二年一一月七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負担しているものといわなければならない。
よつて、原告の本訴請求は全部正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条・第九三条を適用し、仮執行の宣言はこれを付さないのを相当と認めてこれを却下することにし、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉永順作)
目録
(イ)、甲府市伊勢町第一、〇六五番(公簿上は同町第一、〇六二番の二)宅地二六三坪(公簿面積は二五五坪)。
(ロ)、右土地の内、その東北隅角を(A)点とし、これから進んでその東側経界線上南方六間の地点を(B)点とし、その北側経界線上西方一〇間の地点を(D)点とし、(B)点から西方一〇間・(D)点から南方六間にあたる地点を(C)点とし、右(A)・(B)・(C)・(D)・(A)の各点を順次直線で結んだ範囲内の部分六〇坪。
(ハ)、前同所同番所在家屋番号伊勢町第二八一番の二
木造メツキ鋼板葺二階建居宅一棟
建坪二七坪九合二勺・二階坪一三坪
附属建物
木造瓦葺平家建物置一棟
建坪四坪五合
(ニ)、前同所同番所在家屋番号同町第二八一番の三
木造杉皮葺平家建居宅兼店舗一棟
建坪一五坪